田舎住まいなので、通学するときにはいつも田んぼの脇道を通っていた。その日も家に帰る為、いつものように田んぼの脇道を、カエルの鳴声を聞きながら歩いていた。
すると田んぼの中に、ピンク色の割烹着のような服を着た人が立っているのに気が付く。「ああ、田植えか何かしているんだな」そう思って良く見てみると、何か動きがおかしい。
片足で腰をクネクネさせながら、白いビニールの紐のようなものを、新体操をしているかのように、体の回りでグルグルさせている。
何と言うか、フラフープをしているような、そんな動き。変な汗が、俺の体中からフツフツと湧き出てきた。
しかもソレは片足でケンケンしながら、少しずつコチラに近付いて来ている。
ゲコゲコと蛙の鳴声が響く夕焼けの田んぼの中で、俺は何故か動けずにソレを見ていた。
腰をクネクネさせて、ピョコピョコとコチラにやって来るソレに、顔は無かった。と言うか見えなかった。
写真でブレた時みたいな、激しく顔を振っている。そんな感じ。体は普通に見えるのに、まるで顔の部分だけぼやけていると言うか・・・。
俺は目がかすれたのかな?と思い、何度も目を擦ってみたが、ソレの顔は相変わらず見えない。
しかも、もう目の前まで来ている。「ああ、こらもう俺の人生終わったな」
そう思ったと同時に、涙が物凄い勢いで流れた。目が痛くて開けていられない程に・・・
俺はその痛みと恐怖で気絶してしまったらしく、次に目を開けた時には自宅の布団の中でした。
そこには俺を囲むように、親父と祖父、祖母と近所の坊さんが居て、なにやら念仏のようなものを、声を揃えて唱えている。
なんだかその状況が可笑しくて、「ブフッ!」と吹き出すと、祖母がグッっと俺の体を押さえ付けて、「ジッとしてろ!」と低い声で言った。
結局それは、俺が目覚めてから1時間程続いたのかな。その後、祖母に聞いた話しでは、俺が出会ったアレは『案山子の神様』とかなんだけど、
その案山子は寂しかったのか何か知らないが、俺を自分の仲間にしようとしたらしい。
「連れてかれたら、一生泥の中で暮さなきゃいけねえんだぞ」と、祖母は最後に言いました。
おかげで今でも、田んぼに案山子がポツンと立っていると、恐くてしょうがないです。
親父に電話で色々聞いてみました。
気絶した俺を見つけたのは近所の人だった。田んぼの脇道に人(俺)が倒れていたので「まさか…」と近付くと、涙を流したまま倒れている俺。
その目の前に、俺を見下ろすような形で立っている案山子。「やっぱり」と思い、俺の祖父や坊さんに知らせたそうです。
昔も似たような事件が、何回かあったみたいです。殆どの人は助かっているそうです。
しかし、発見された時に、目の前の案山子を見つめたままケラケラと笑い続け、案山子の側を離れようとしない者も、何人かいたそうです。
さらに嫌な話も聞いてしまいました。なんでも、昔昔の食糧難の時に、その村にいる役立たずの人を、食いぶちを減らす為に殺してしまうそうです。
しかし、ただ殺すだけではと、田んぼを荒らす獣除けに、
逃げられないように足を片方切断して、白装束を着せ、田んぼに立て掛けた十字型の木に縛り付けてしまう。
片足両手等を縛られて、殆ど身動き出来ないその人は、そこから抜け出そうと体をくねくねさせる。
それを遠くで見る村人は、「あれならあと2、3日は余裕で持つな」と話すそうです。
縛られた人は、大体餓死か日射病?で死ぬが、中には熊や野犬などに食われてしまう人もいるそうです。(獣除けになっていない・・・)
まあ、そんな非道な事をやってれば、祟りや何だで、その村に色々起ったので、(ここら辺の事は、親父も祖父に教えてもらえなかったみたいです)
生きたまま案山子にされた人を、『神様』と祭り上げた。
まあ、俺の親父も死んだ祖父も無類の酒好きなので、何所まで本当か何所までが嘘かわからんです。